最初からネイティブ英語を目指すべきではない
英語学習者であれば、「ネイティブのように英語を話せるようになりたい」と誰でも一度は願うものです。そのような人達はまず、ネイティブがよく使うような格好良い英語表現を覚えようとします。
しかし、ネイティブがよく使う表現を文法力のない人がいきなり学んだところで、それらを応用することはできません。また、そういったフレーズは使う場面も限られている場合が多いです。
市販で売られている英語雑誌などを見ると、決まって「ネイティブならこの表現を使う」といったセクションがあり、以下のような英語表現が載っています。
彼女は私に怒鳴り散らした。
She had a go at me.
私たちは運命共同体だ。
We’re on the same boat.
もちろん、こういった表現を覚えることも大事です。しかし、それと並行して文法も学ばなければ、上記のようなフレーズを自分の言葉で応用することができません。
言語学者であるGilian Brown氏とGeorge Yule氏は、著書「Teaching the Spoken Language」の中で、「話し言葉には相互交流型 “Interactional”と情報伝達型 “transactional”の2種類がある」と述べました。
相互交流型とは、「お互いの関係維持のための会話」です。言い換えれば、ほとんどが決まり文句で構成されている会話です。挨拶や簡単な会話などがこれに当たります。
一方、情報伝達型とは「自分の意見を述べるなどといった会話」を指します。これは決まり文句ではカバーできません。自分で一から文章を作る能力が必要です。
この2種類の全体的な会話の割合ですが、相互交流型の会話は2割しか占めておらず、情報伝達型は残りの8割も占めています。つまり、英語で言いたいことが何でも言えるようになるには、情報伝達型の会話を集中的に学ぶ必要があります。
こういった事実を考えると、「決まり文句やネイティブがよく使うフレーズさえ覚えれば英語はマスターできる」ことはあり得ないということになります。
まずは受験英語をマスターする
ネイティブらしい英語表現を使えるようになるには、学校で習うような標準英語を完璧にしてからでないと応用することができません。いわゆる「受験英語」と呼ばれるものです。文法を覚え、その上でネイティブがよく使う表現を覚えればいくらでも応用ができます。
私の英語の恩師もこのように教えてくれました。習字を習う際に、いきなり草書体をスラスラと書くことはできない。まずは楷書体を練習し、次にそれを少し崩して行書体を練習する。そして、最後にもっと崩して草書体を書く。
この順番で練習していけば、崩して書いても美しく書くことができる。しかし、楷書体を書く練習を疎かにして、適当に崩して書いた字は読めない。
英語も同様であり、まずは学校英語で正しく話せるようになれば、日常英会話で崩しても問題ない。しかし、基本のできていない人がネイティブのような英語を真似しても、まず通じない。
このように、最初は基礎となる学校英語を使いこなせるようになることが大事なのです。
ネイティブ達は、私達にネイティブらしい英語表現を使うことを求めていません。彼らにとって、意思疎通さえできればそれで良いのです。
事実、ネイティブも学校英語は頻繁に使います。しかも、教養のあるネイティブほど学校英語を話します。そう考えると、私たちが最初に目指すべきゴールはネイティブらしい英語ではなく、「ネイティブと対等に話し合える英語力」です。
ネイティブが使うような英語表現を身につけるのは、最初はあくまで趣味程度として最初は捉えた方が賢明です。それよりも、まずは学校英語で自分の言いたいことをなんでも言えるようになりましょう。それが英語マスターのための一番の近道です。
ネイティブが使うような表現は、受験英語を使いこなせるようになった後に覚えても決して遅くはありません。