ここでは、英検1級の読解問題の解き方と着眼点について、パート2「長文の語句空所補充」を題材に解説します。今回は、2015年第1回試験の過去問題を参考に引用します。
以下の問題に取り組む前に、まずは「英検準1級の長文読解問題を解く:長文の語句空所補充」を最初にご覧になることをおすすめします。すでにチャレンジしていただいた方については、そこで解説した着眼点をもう一度見直した上でこの1級の問題に取り組みましょう。
引用元:
2015年6月7日(日)実施 実用英語技能検定1級 過去問題
問題1
In 1991, Dutch engineer Hans Monderman introduced the concept of “shared space,” an urban-design approach that minimizes the separation of vehicle traffic and pedestrians. He believed that by removing boundaries such as curbs, road-surface markings, and traffic signs, he could ( ). Monderman’s ideas were based on a theory proposed in 1982 by psychologist Gerald J. S. Wilde known as risk compensation. Wilde suggested individuals have a level of perceived risk with which they feel most comfortable. When the level of perceived risk is higher or lower, the individual adjusts his or her behavior to restore it to the target level. In the case of shared space, the absence of boundaries increases the level of perceived risk. The environment makes it unclear who has the right of way, and, as a result, both drivers and pedestrians become more alert and cautious.
1.inspire better vehicle design
2.reduce spending on road construction
3.speed up the flow of traffic
4.reduce road-related accidents
始まりの文は「1991年、オランダ人エンジニアであるHans Monderman氏は、共有空間の概念を導入しました」です。introduceの一般的な意味は「?を紹介する」ですが、概念や考えなどを「導入する(新しく提唱する)」という意味もあります。
共有空間とは何かというのが、続く文に書かれています。「車両交通と歩行者の分離を最小化する都市計画アプローチ」とのことです。minimizeは、対義語のmaximizeとセットで覚えてください。また、「分離」を意味するseparationは、動詞separateの名詞形です。最後のpedestrianという単語は歩行者という意味ですが、最近では日本語でも「ペデストリアン・デッキ」などと使われますので、ご存知の方も多いと思います。
さて、次の文に空欄が含まれています。空欄の直前まで読んでみると「彼は、縁石や路面のマーキングといった境界を取り除くことで……できると信じた」と書いてあります。ですから、この空欄に入る語句は、境界を取り除くことで可能になったことと予測できます。
ここまでの情報だけでは解答することができませんので、続く文を見てみましょう。「Monderman氏の考えは、1982年に心理学者のGerald J. S. Wildeが提唱したリスク補償として知られる理論に基づいている」とのことです。
この理論については、次の文において、①人々には、自信が一番心地よく感じる認知リスクの程度がある、②認知リスクが低すぎたり高すぎたりすると、最適なレベルになるように自身の行動を調整する、と説明されています。
これで、リスク補償として知られる理論のおおまかな概要がわかりました。次の文を見てください。In the case of shared spaceと始まっていますので、Hans氏が提唱した共有空間の概念の場合はどうなのか、ということが例示されているはずです。
ここがキーポイントとなります。「共有空間の場合、境界がないことが認知リスクのレベルを上昇させる。このため、誰が正しい道を通っているか不明瞭になるため、結果として、運転手と歩行者の注意度が上がる」ということが書いています。
ここまでで、Hansさんが縁石や路面のマーキングといった境界を取り除いた理由は、「認知リスクのレベルを上昇させるため(運転手と歩行者の注意度をあげるため)」というのが分かります。言い換えれば、Hans氏は「境界を取り除くことで、安全な道路環境にできると信じた」と解釈することができます。
このことから、選択肢として最も適切なのは、4の「交通事故を減らす」が当てはまります。選択肢1についてはこの文脈では全く関係ないことですので、最初に排除しなければなりません。2(道路工事への支出を減らす)および3(交通の流れを速くする)については、それ自体が安全につながるかどうかは不明確と言えますので、不適切です。
問題2
Believers in Wilde’s theory assert that the presence of safety features often ( ). They point to road-safety interventions that have failed to achieve their expected levels of success as evidence of this. Indeed, several studies have shown that driver behavior changes when safety features are implemented. Drivers in vehicles equipped with air bags drive more aggressively, and drivers in vehicles with antilock brakes drive closer to the car in front of them and brake more abruptly. Not all research supports the correlation between safety features and risk perception, however. A 2007 study of drivers in the United States, for example, found that reckless driving behaviors had not increased as a result of the implementation of seat belt laws.
1.lowers the level of perceived risk
2.helps make drivers more alert
3.makes other measures unnecessary
4.leads to changes in driving laws
さて、次の問題は、最初の文に空欄があります。「Wilde氏の理論(リスク補償)の信者は、交通安全のための安全策の存在は、しばしば( )であると主張する」とあります。問題1での流れをしっかり把握していれば、ここはすぐに解答することができるはずです。選択肢を見てみましょう。
1.認知リスクのレベルを低下させる
2.運転手の注意力をあげる
3.他の対策を不要にする
4.運転に関する法律の改正につながる
まず4を排除しなければなりません。4はこれまでの内容と全く関係がありませんので、妥当ではないと判断できます。「安全のための特徴」というのは、交通安全を守るためにとられている安全策のことです。言い換えれば、問題1ででてきた縁石や路面のマーキングのことを指しています。
問題1でわかったとおり、リスク代償および共有空間の概念というのは、縁石や路面のマーキング(安全策)をなくすことで運転手と歩行者の注意を喚起する(認知リスクのレベルを上昇させる)という主張でした。要するに、安全策があることで、逆に危険である(認知リスクのレベルが下がる)ということを主張しているわけです。
このことから、この問題の正答は1になります。2および3については、あくまで一般論で言えば妥当な理論ですが、この問題の文脈とは全く逆の内容になってしまうというのがおわかりいただけると思います。